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真空管は音が良いという理由を説明するのに、楽器の音は倍音でできている、そしてその倍音は偶数次の倍音でできている。
人の耳には偶数次の歪みがまろやかで心地よく聴こえる。
真空管の音が良いのは偶数歪みだからである。
偶数歪みが柔らかく聴こえるのに対し、奇数歪みは刺激的で耳障りな音である。
と、こんな説明が真空管アンプの販売店でされている。
自分が真空管の音が良いと感じるのは結構。
でも、他人がそう感じるかは別の話である。
いただけないのは、楽器の音が偶数倍音でできていると説明しているところ。
楽器の倍音を管楽器で説明してみよう。

図のように管楽器は両端が開いている開管と、片方が閉じている閉管がある。
具体的な楽器の例としては、開管にフルート、閉管にクラリネットがある。
これらの楽器の倍音は、開管のフルートでは偶数倍音列、閉管のクラリネットでは奇数倍音列になる。
では、フルートはまろやかな音でクラリネットは刺激的で耳障りな音なのかということになる。
これは、チャイコフスキーのバレエ音楽の中の「中国の踊り」をフルートが演奏しているところ。
これは、ドビュッシーの「クラリネットのための第1狂詩曲」である。
クラリネットの音は刺激的で耳障りな音に聴こえるだろうか?
真空管アンプの音の説明者は、実際にフルートやクラリネットの音を聴いたことがあるのだろうか?
次の図はクラリネットの音を機械を使って測定したものであるが、奇数倍音列であることがはっきり出ている。

オーディオの好きな人の話を聞くと、しばしば、この人は実際に楽器の音をどのくらい聴いたことがあるのだろうと思えるものがある。
私は中学生のころから真空管アンプを作ってきた。
そのころは、トランジスターが未発達で、音楽鑑賞用としてはとても実用的ではなかった。
圧倒的に真空管の方が音がよく、その差は誰が聴いても歴然とした差があった。
しかし、その後の半導体技術の進歩で、その地位は逆転した。
特性はもう比較のしようのないほどの差がついてしまった。
真空管では低音から高音まで、人の耳で聴こえる範囲の20Hz〜20KHzを一生懸命追っていたが、トランジスターの方は0Hz〜100KHzをカバーすることが容易になった。
パワーも真空管が10W〜50Wぐらいなのに対し、トランジスターでは100Wを超えるのも容易で、1000Wのアンプでさえ売られている。
私が最も問題にするのはダンピングファクターで、真空管がせいぜい10ぐらいなのに対し、トランジスターでは200を超えるものは珍しくない。
ダンピングファクターとは何だと言う人がいるかもしれないが、乗用車に例えれば、ダンピングファクターが小さいのはでこぼこ道に弱い車のようなもの。
乗っていて、悪路の影響を受け乗り心地が悪いということだ。
アンプの音ではダンピングファクターが低いと、音が暴れまくる。
これは、実際に楽器では出ていない音が付加されるように聴こえる。
最もそういう音が好きというなら、個人の好みに対してとやかくいうことはない。
イメージとして真空管アンプの音は柔らかいと思っている人がいるようだが、当初、私もそう思っていた。
それで、高音用に真空管アンプを使ってみた。
スピーカーから出てくる音が、きつく刺激的だったので、これはスピーカーの特性だと思っていた。
ところが、ある日トランジスターアンプに換えてみたところ、すっかり綺麗な高音になった。
ダンピングファクターの関係で、真空管は高音を再生するとき暴れまくっていたのだ。
私は楽器の音をできるだけ忠実に再生することを狙っている。
しかし、人によっては現実にない音を付加してくれるものを好む人もいる。
だから「音がいい」と言っても、その人の好みを知らないと自分の求める音の参考にならない。
真空管アンプのいいところを宣伝するのはよい。
しかし嘘はいけない。
もし、自分が「こうだろう」と仮定したら、調べてみることが必要だ。
そうでないと信仰のようになってしまう。
リコーダーに関心のある方→コリーナミュージック


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